これほど文明が発達した21世紀においても、この世の中には時おり、バカげた話が存在する。現代はジャンボジェット機がマッハ0.8という準音速で全世界を飛び交い、新幹線は時速300キロで日本列島を駆けめぐっている。さらには人類はDNAさえ操作できるほどの力を持つ。しかも、日本は地球上でも有数の工業技術力をもつ立派な資本主義国家である。GDPで見れば世界第2位の規模を誇る経済大国でもある。
世界をリードすべきその国で、ここまでメチャクチャな財政運営が行なわれているとは、ふつう誰も考えないであろう。
世界のほとんどの著名経済人や政治家が名を連ねる「世界経済フォーラム」の最新ランキングで、日本は国家財政において全世界117カ国中114位という信じがたい烙印を押されている。かつて内戦で人口の大半が消えて今も政情不安定なカンボジアより、この日本の方が下なのである。
国民の多くはその実態を知らない。マスコミがそれを報道しないからだろうか。あるいは、政治家・官僚がごまかし続けているからなのか。それとも私たち日本人がよほど無能ということなのか。
私たち日本人は今、大いなる誤解と錯覚に陥っている。現在の豊かな生活がまだまだ続けられるという錯覚。国が潰れるはずなどないという錯覚。そして今、その拠りどころになっているのが、小泉政権下で改革が進んでいるという錯覚である。
確かに、小泉氏は「改革もどき」を実行しているかもれしない。しかし、借金の加速度的膨張は延々と続いているのだ。このまま毎年、同じような借金を重ねていけば、遅くとも5年以内、早ければ2年以内に、私たちの日本国は今までとは全く違う姿に変わってしまうだろう。
そのときには一生忘れることのできないカタストロフィ(破局)が私たちの目の前に突然現れ、私たちは「自分の人生にこれほどのことが起こるのか。経済というのはこれほどの惨状を呈することがあるのか」と思い知らされることになるだろう。
小泉改革なるものがほとんど進んでいないことのひとつの証拠をお見せしよう。
この4年間における日本国の借金は中央政府だけで年平均57兆円ずつ増えてきた。ただし、直近の1年間においてはそれは当てはまらない。2004年度は中央政府つまり国だけで何と78兆円も増えているのである。
国家破産とは国民破産のこと
どのように月の影響魚がいます
私は以前から国の財政破綻について「国家破産」という言葉を使ってきたが、実はこの言葉そのものは正確な表現とは言えないかもしれない。本当のことを言ってしまうと、国自身は破産することがないのである。つまり、その借金のツケをすべて国民へと飛ばして、自らはゾンビのように生き残るのである。国家破産とは"国民破産"のことなのである。最終的には私たち国民が全財産を取られて破産するということなのである。
では、私たち国民はどのようにして財産を取り上げられてしまうのだろうか。多くの人が真っ先に考えるのが増税だろう。場合によっては大増税もあるだろうが、それだけではない。増税や歳出削減によって財政収支を改善することができなければ、国債や通貨価値(=円)の暴落、そしてハイパーインフレという「市場の制裁」が待っている。
日本の戦後においても、政府当局が意図的に起こしたわけではないにしろ、円の価値が暴落してハイパーインフレが起こり、国民の生活は破壊された。さらには預金封鎖という徳政令でもって、直接的に国民の財産は奪われた。
通常、国家破産などの経済危機に陥った国にはIMFによる融資をはじめ先進各国からの経済援助がある。しかし、1000兆円もの借金を抱える日本ではそれらの援助など焼け石に水だろう。
たとえば2001年末に国家破産したアルゼンチンの公的債務は約16兆円であった。アルゼンチンでは対外債務が大きかったこともあり、この程度でも破産してしまった。それに対して日本国の借金の総額1000兆円はあまりにも巨大すぎて、まともに援助できる国などどこにもないのだ。結局、私たちの個人金融資産でそれをあがなうしか手はないと言ってよい。
自分の目で実際に何が起こっているか確かめるしかない
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タイタニック号の光景。乗客たちは夕食のメニューでもめている。彼らの視野には目の前のメニューしかない。皆がもめている最中、一人の男がデッキに出た。彼は「こんなバカな奴らと付き合っていられない」と外の新鮮な空気を吸おうと思ったのだ。
彼の瞳には信じられない光景が飛び込んできた。巨大な氷山がすぐ目の前に迫っていたのだ。衝突は時間の問題だ。しかし、船内のレストランにいる他の乗客にはそれが見えない。それはまさに今の私たち日本人の姿だ。
彼は大声で乗客に向かって叫んだ。「この船は沈没する。早く逃げろ!」
皆、笑っている。「何を言ってるんだ。タイタニック号が沈没するはずがないじゃないか」。
仕方がない。これ以上、彼らを説得する時間はない。彼は意を決して救命ボートに乗り移った。
数時間後、浸水で船が傾き、船内はいよいよ大パニックになった。救命ボートに乗り遅れた多くの乗客が氷の浮かぶ冷たい海へと沈んでいった。船が沈み始めてからでは、乗客全員が助かる手だてというものはない。
国家破産も同じ。目に見える形でハイパーインフレや円安、金利上昇などの国家破産現象が始まったときにはもう遅い。助からないのだ。だから、皆さんは船内にこもっていないで積極的にデッキに出て情報収集に努めなければならない。実際になにが起きているのか自分の目で確かめる必要があるのだ。
日本国ははたしていつまでもつのか? 私の予測では早ければ2007年、遅くとも2011年には破綻は表面化するだろう。それ以降、私たちは激動の国家破産時代を迎えることになる。日本国も私たちもまさに崖っぷちに立たされているのだ。
国家破産は歴史上、何度も起こっている
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国家破産時に起こることは、歴史を振り返り、これまで破産した国々を調べればわかる。古くはローマ帝国、戦前のドイツ、トルコ、ロシア、そして最近のアルゼンチン。これらの国々では基本的に次の3つのことが起きている。
1つ目が「制御不能のすさまじいインフレ」。とてつもない物価の上昇、つまりハイパーインフレである。本質的には通貨価値の暴落なのである。モノの価値は変わらないのだが、通貨価値がどんどん下がる結果、たとえば1本100円のペンが200円、300円になっていく。
2つ目が「大増税」。すでにさまざまなメディアで「増税せざるをえない」という報道がなされているので、国民の多くもある程度は覚悟していることだろう。本丸はもちろん消費税だ。消費税は今後いくらになるのだろうか。10%とも15%ともいわれるが、その程度ではやっていけないのは間違いない。
経済学者の水谷研治氏は、国家破産を回避させるためには「現時点で45%にせざるをえない」と言っている。ここまで上げれば借金の増加は食い止められるかもしれない。しかし、ここまでやってもトータルの借金残高は全く減らない。本格的な財政建て直しにはほど遠い。
また、別の財政学者で、内閣府の顧問を務める慶大の跡田直澄教授は「消費税は90%位にしなければ無理だろう」と言っている。皆さんはこの数字を実現可能と思うだろうか。
しかし、私たちの将来には、消費税等の大増税で国の破産を回避させるか、あるいはハイパーインフレや徳政令で国民が増税以上の経済的負担を負うか、その2つの選択肢しかないのだ。
そして3つ目が「徳政令」である。これが一番恐い。いわゆる「借金の踏み倒し」を徳政令という。といっても、私たち国民が借金を踏み倒せるということではない。踏み倒すのは政府だ。つまり、徳政令とは国民の財産で国の借金をチャラにすることにほかならない。
具体的にはたとえば「デフォルト(債務不履行)」がある。国債というのは国が投資家から借りた借金に対して発行する借用証書だ。資金繰りがつかずに、この借金が返せないと宣言することをデフォルトという。その瞬間、国債は紙切れ同然になる。
徳政令の中でも、最も恐ろしいのはやはり「預金封鎖」だろう。これだとほとんど国民全員に影響が及ぶ。
実際に破産したロシアでは、何と貸金庫に保管していた財産まで没収されしまったのだ。金庫の中にあった株券、金、ダイヤ等の貴重品はすべて国家に持って行かれてしまったのだ。このような常識で考えられないことが起きるのが国家破産なのである。
国家破産時のインフレは悲惨なもの
国家破産の結果起こることは、基本的にはこの3つであるが、さらに詳しく付け加えるならば次のようになる。
■歴史が教える国家破産の結末
1.ハイパーインフレ
国家破産を原因とする制御不能のインフレ。そのインフレ率はその国家の経済環境・政策によって異なるが、10年ほど前のロシアでは年率7000%というすさまじいインフレが発生し、トルコではつい最近まで年平均80〜100%のインフレが続いていた。
2.国民負担の増大
形を変えた増税はすでに始まっている。医療費の値上げや公的年金の支給額の削減など、国民負担の増大がじわじわとしのび寄っている。将来は消費税の引き上げを筆頭に大増税が間違いなくやってくることだろう。
3.預金封鎖などの徳政令
1998年のロシア危機においては、ロシアの国内銀行の全ての預金と貸金庫が封鎖され、そこに入っていた資産は没収された。さらに2001年12月、アルゼンチンにおいても国家破産を原因とする預金封鎖が断行され、経済が大混乱に陥り、暴動、略奪が発生し、銀行は投石だけでなく焼き討ちにまで遭った。
昭和21年の日本における徳政令では、銀行預金・郵貯が封鎖されただけでなく、国債は全て紙切れにされた。
4.治安の極度な悪化と社会の変動
ハイパーインフレでも、預金封鎖の場合でも、国民の円資産が大きく目減りし、大多数の国民が生活を破壊されるため、治安が極度に悪化する。アルゼンチンの場合、昼間から強盗が多発し、資産家の家族は誘拐の危険にさらされた。ロシアでも治安の悪化は著しく、一時は郊外の一戸建てには住めないという状況であった。
5.大不況(スタグフレーション)
国家破産は極端な二極分化をもたらす
国家破産の結果、ロシアでは極端な二極分化が進んだ。全人口のわずか3%程度のスーパーリッチと40%もの乞食同然の人々に分かれた。そこそこ食べていける「中流」はせいぜい10〜15%程度である。
自殺が急増し、現在でも年間5万人もの人たちが自ら命を絶つ。モスクワの病院には、自殺未遂者や自殺願望の強い患者を集めた「自殺科」があるという。国家破産で受けた深い傷はまだ癒えていないのである。
私自身もロシアの現地取材によって二極分化を実感した。
数年前の秋、初めてモスクワを訪れたときのことだ。ほとんど照明もないような暗い空港を出て、車で1時間ほどかけモスクワ市内に入った。結構寒い日だったが、道端に点々と若い女性が立っている。「あの人たちは?」と聞くと、通訳のガイドは、あまり話したくないといった様子で、「あそこに立っている女性は、国家破産の犠牲者です。彼女たちは財産も何もかも失いました。売るものがないので自分を売るしかないのです」と泣きそうな声で話してくれた。
ほかの人から聞いた話では、ロシアの若くて美しい女性はほとんどアメリカへ行ってしまったそうだ。彼女たちはそこでアメリカ人の金持ちと結婚した。一部の若くて美しい人はいいが、おばあさんや男などはどうすればよいのか。お金がなければ海外にも行けない。国内にとどまり、いつどうなるかわからない陰惨な生活を送らざるをえないのである。
もし日本で同じような状況になったらどうだろう。1億2000万人のうち、3%の360万人がスーパーリッチ。そこそこ食べていける人間が15%で1800万人。そして人口の40%を占める4800万人は乞食同然というわけだ。その人たちは日々の食事にも困るということである。
国家破産は最終的には極端な二極分化をもたらす。中流がどんどん脱落していくわけだ。すでに現在も経済格差拡大による二極化はじわじわと広がりを見せている。しかし、国家破産による二極分化はこんなものでは済まない。
ネズミ、カエルを食べる生活
アルゼンチンではどうだったのだろうか。
預金封鎖の実施により国民の不満は爆発した。全土で経済暴動が発生し、暴徒化した群衆による店舗への略奪が相次いだ。
『文藝春秋』2002年5月号に掲載された「『明日の日本』アルゼンチンルポ」には、「とにかく強盗事件が増えています。しかも凶悪化して、特に若い奴が人を簡単に殺すようになった。まるで西部劇だ」とある。ロシア同様、とにかく社会不安が増大し、治安が極度に悪化したことがわかる。
ほかにも驚くべきことがいくつも起こっている。それを報じる新聞記事を2点ほど紹介しておこう。まず、「銀行質屋や債券乱発」という記事だ。なんと銀行が質屋を始めたというのだ。生活に困った市民が持ち込んだ質草で、銀行が質屋を営んでいた。質屋の窓口は連日、順番待ちのお客であふれかえっていたという。
「ネズミ・カエルで飢えをしのぐ」という記事はさらに悲惨だ。記事には「経済危機下で市内の貧困層の人たちは、馬やカエル、ネズミまで食べることを余儀なくされている」というブエノスアイレス近郊にあるキルメス市の市長のコメントが紹介されている。食糧難もこれほどまでに深刻だったのである。
ところで、国家破産に至ったロシア、アルゼンチンの公的債務はどのくらいだったのだろうか。さぞやとんでもない大借金を抱えていたと皆さんは思うにちがいない。両国が預金封鎖を実施した当時の対GDP比で見た借金は、ロシアで60〜70%、アルゼンチンで50〜60%であった。両国ともこのレベルの借金で破産した。
日本は‥‥申し上げたとおり200%だ。これほどの借金を抱えながら、日本の国家破産はまだ顕在化していない。日本がアルゼンチンやロシアと違うのは、まだ民間部門の経済力、特にトヨタ、キャノン等の国際優良企業に代表される輸出競争力がある点だ。ただ、これにより先送りが可能になり、今ではロシア、アルゼンチンをはるかに上回る大量の「国家破産のマグマ」をため込んでしまった。
私たちはその厳しい時代をどう生き抜いていけばよいのか。悲観する必要は全くない。「賢者は最悪を想定しつつ、楽観的に行動する」。賢者はどんな時代であっても必ず生き残るのである。
この場合の賢者とは、単に知識があるとか、頭がよいということではなく、「将来考えられる事態にきちんと手を打っている人間」という意味である。この2年以内に手を打てば、何も悲観する必要はない。きっと素晴らしい未来が開けることだろう。
ただし、この事態を甘くみれば、おそらく命取りになる。国家破産を甘く見て、「そんなことは日本では起こりえない」とか、「たいしたことはないだろう」、あるいは「おれには財産がないから関係ない」などと言っている人は、将来、暗黒の未来をさまようことになる。
これは何も国家破産に限った話ではない。テロ、戦争、環境問題、資源不足、食糧問題、鳥インフルエンザの大流行など、今世紀はこれまで以上に混乱と混沌の時代になるに違いない。ボーっとしていたら最悪、命さえ失いかねないという厳しい時代だ。島国で暮らす日本人は、もともと危機意識に乏しい。戦後の平和な時代が、日本人の危機感の欠如に一層の拍車をかけた。正しい危機意識を持ち、正しい情報を得て、しかるべき手を打った人間のみがこの厳しい時代に生き残ることができるのだ。
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